「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」のトッド・フィールド監督が16年ぶりに手がけた長編。「アビエイター」「ブルージャスミン」でアカデミー賞を2度受賞しているケイト・ブランシェットが主人公リディア・ターを熱演。2022年アメリカ製作 2023年日本公開。
あらすじ
EGOT(エミー賞、グラミー賞、オスカー、トニー賞の頭文字を取った言葉)と呼ばれる音楽業界の全ての賞を獲得し頂点に君臨する指揮者リディア・ター。自伝小説も出版されようという最中、ある事件をきっかけに確立した地位が失われていく。
見どころ
ジュリアード音楽院の講義シーン
ジュリアード音楽院でターが講義を行うシーンで音楽の父バッハについて生徒と論争する。その生徒はゲイの黒人男性。男尊女卑で子供を20人も作ったと言われているバッハには作った音楽を含めて興味がないとターに告げる。ターは音楽を性的嗜好で評価するという馬鹿げたエゴは音楽と向き合う時に邪魔でしかないと真っ向から反論し、魂がソーシャルメディアに踊らされている!とその生徒をこき下ろしてしまう。ピリピリハラハラの名シーン。
こうした芸術至上主義に基づく盲目的(ほかは何やっててもいいでしょ的な)言動が原因でターがその後地位を失うことになるので、この講義シーンはすごく重要。
いまだ世の中に溢れるハラスメントおやじの様をオスカー女優ケイト・ブランシェットが演じていることで女性+レズビアンという役柄から状況が複雑になる。そして美しさで嫌悪感が薄まったところに彼女の持つ圧倒的な存在感と演技力が乗っかるので権威とハラスメントについて考えさせられるし、どう捉えたらいいんだろうかと悩む。
が、しかしターは女性パートナーと養女をもらい自身は父として接している。そして作曲をするための別宅があるあたり 行動がとても男性的なのでそうした目線で見ていくとしっくりいく。
男性が主役だったら
ちなみに映画評論家町山智浩さんのYouTubeの情報によると、この脚本の主役はもともと男の設定だそうで監督がこの役をケイト・ブランシェットにやらせたいと言ってキャスティングしたそうだ。マジか!!?と思うが本当らしい。
ならば、もし男だったら演じるのは誰か。
世の中が絶対許さないけどこの役はケヴィン・スペイシーしかないと思う。セクハラで告発されたが彼自身はゲイを公表しているので女性へのセクハラは無いハズだ。なので秘書のフランチェスカ、クリスタ・テイラー、パートナーのシャロンのキャストはそのままにして主役だけチェンジ。
ハラスメントおやじ役ケヴィン・スペイシー。ピッタリ!全く違う映画になりそうだから見てみたい。
しかし、
男性が演じてしまうと単に悪い親父が世間から叩かれて表舞台から姿を消す映画になって、終盤の異国の地でマッサージを頼むシーンもあっさり「じゃあ、5番の娘でお願いします。」と普通に注文してしまいそうだ(笑)。自分の言動と向き合わず反省することも無く、ハラスメント行為ができない環境に置かれるだけじゃ、何の捻りもなく現実的すぎてドラマが生まれないな。(x〜x)
まとめ
バッハが生きていた300年以上前の男性中心の社会も、いまでは女性の社会進出も進み大きく変化した。この映画も20年後に観たら、me too運動やキャンセルカルチャーのスタート地点の作品に見えるんのかもしれない。今後どれくらいのスピードで世の中が変わって行くかわからないけど、ハラスメントが収まったのちの世の中では、そうした恐怖に怯えることがなくなる反面、上に昇って行くには実力だけの厳しい勝負になって行くんだろうか。
2023年12月に文春砲を喰らった松本人志の性加害問題のきっかけとなったあの高級ホテルでのパーティー。それをセッティングしたスピードワゴン小沢の行動だって結局は芸能界で生き残るためにやったことなんだろうから、温床となっている闇パーティーを無くさないとこうした問題は無くならないのかもしれない。政治資金パーティーといい"パーティー"ってろくなもんじゃないな。
以上です。最後までご覧いただきありがとうございました。
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