1984年フランス、西ドイツ、イギリス、アメリカ合作。1985年日本公開。第37回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたヴィム・ヴェンダース監督のロードムービーの傑作!
スタッフ
製作総指揮 | アナトール・ドーマン |
プロデューサー | クリス・ジーヴァーニヒ、ドン・ゲスト |
監督 | ヴィム・ヴェンダース |
脚本 | L・M・キット・カーソン、サム・シェパード |
原案・脚色 | サム・シェパード |
撮影 | ロビー・ミューラー |
音楽 | ライ・クーダー |
編集 | ペーター・プルツィゴッダ |
キャスト
役名 | キャスト | 役柄 |
---|---|---|
トラヴィス・ヘンダースン | ハリー・ディーン・スタントン | 4年の失踪を経て テキサスに現れた男 |
ジェーン・ヘンダースン | ナスターシャ・キンスキー | 行方しれずのトラヴィスの妻 |
ウォルト・ヘンダースン | ディーン・ストックウェル | トラヴィスの弟 |
アン・ヘンダースン | オーロール・クレマン | ウォルトの妻 |
ハンター・ヘンダースン | ハンター・カーソン | トラヴィスとジェーンの息子 |
ウルマー医師 | ベルンハルト・ヴィッキ | トラヴィスを診療しウォルトに連絡した医師 |
レンタカー屋の職員 | クラッシー・モビリー | |
カメリータ | ソコロ・バルデス | ウォルトの家政婦 |
叫ぶ男 | トム・ファレル | トラヴィスが道で出会った男 |
スレイター | ジョン・ルーリー | ジェーンが務めるのぞき部屋のマネジャー |
あらすじ
主人公のトラヴィスが失踪して4年の歳月が流れていた。残された息子 ハンターはトラヴィスの実弟ウォルト夫妻が引き取り 3人は親子のようにLAで暮らしていた。そんななか兄トラヴィスがテキサスで見つかったとウォルトに連絡が入る!
信じられない気持ちでテキサスに飛んだウォルト。二人は4年ぶりの再会を果たすがトラヴィスには生気がなく何があったのか喋ろうともしないうえに目を離すと姿を消してしまう。ウォルトはその度に独りどこかに向かって歩いているトラヴィスを連れ戻し、なんとかクルマに乗せLAの自宅まで辿り着いた。そしてトラヴィスはウォルト宅に身を置くことになった。
ウォルトはハンターにトラヴィスが実の父であることを告げるが、ハンターはまだ8歳、4年前に失踪した父の記憶はなかった。二人はウォルト宅の生活の中で少しずつ距離を近づけていき、ある日トラヴィスは行方不明の妻ジェーンを探す旅に出ることをハンターに告げる。するとハンターは「僕も一緒に行く!」と。そして二人はジェーン探しの旅に出る。
見どころと感想
切り取って額に入れて飾りたい
切り取って額に入れて飾りたくなるほど美しいシーンがたくさんある。
①LAに向かうクルマの中でトラヴィスがテキサス州のパリという場所は両親が初めて愛を交わした場所だとウォルトに告げるシーン。まっすぐ続く道、ルームミラーに映るトラヴィス。
②モハベ砂漠で廃車の黄色い小型トラックに座っているトラヴィスにウォルトが声をかけるシーン
③ウォルトのスーツを借りてハンターを迎えに行き夕暮れの中 二人で家に向かって歩くシーン
④ジェーンと再開したあと、一度は帰ろうとしたが考え直して立ち寄ったバーの薄暗いカウンターで昼間から酒を飲むトラヴィスにハンターが酒臭いと言って立ち去るシーン。
そしてもちろん⑤のぞき部屋でトラヴィスとジェーンが会話するシーン。挙げればキリがない。
撮影はロビー・ミューラー、そこにライ・クーダーのスライドギターが入るともうたまらなくカッコいい!ちなみにロビー・ミューラーはジム・ジャームッシュ監督のモノクロ作品「ダウン・バイ・ロー」や「コーヒー&シガレッツ」も彼が手掛けた映像だ。
テキサスの話
テキサスというとどうしても"テキサスブロンコ"の愛称で多くのファンを熱狂させたプロレスラー テリー・ファンクのことを思い出してしまう。テキサス出身のアメリカ人で兄のドリーとタッグを組んで"ザ・ファンクス"として日本でも大人気だった。有名なのが悪役コンビのアブドーラ・ザ・ブッチャー、タイガー・ジェット・シンとのタッグマッチ!ブッチャーが隠し持っていた凶器(フォーク)でテリーをめった刺し 大量の流血で伝説の一戦となった。テレビでは一部カットされたがとにかく強烈な印象でいまだに目に焼き付いている。彼の得意技が伝家の宝刀"スピニング・トー・ホールド"。一度聞けば耳に残る彼らの入場曲も大ヒット!そんなテリー・ファンクだが2023年8月に79歳でこの世を去った。"スピニング・トー・ホールド"も最近では使われない技になってしまったのは寂しい限りだ。映画と全く関係ない話を書いてしまったが、舞台がテキサスとなれば書かなくてはならないだろう。勝野洋(テキサス刑事)の話は次の機会にする。
さて、この映画タイトル「パリ、テキサス」は実は撮影の途中で決まったらしい。さらに脚本も未完成のまま撮影を進めていったという。それでこんな傑作が生まれてしまうんだから映画ってのは不思議で奥が深い。
そして本作の映像の中にはアメリカ国内にフランス産が入ってくる描写がたびたび登場する。
ひとつは当時ロサンゼルスに本拠地があったNFL(アメリカンフットボール)のチーム「ロサンゼルス レイダース」の看板は撤去され、フランスのミネラルウォーター「エヴィアン」の看板に置き換えられようとしている。もうひとつ、ジェーンとハンターが再会するホテルはメリディアンという名のホテル。メリディアンはフランスの航空会社エールフランスが創業したホテルチェーンだ。さらにトラヴィスの弟ウォルトはフランス人の妻アンを迎えている。
なぜフランスなのか。
トラヴィスとウォルトの会話の中で映画には登場しないが父のエピソードが話される。父はパリジェンヌに憧れ 妻にそうした振る舞いを求めたという。パリジェンヌといえば知的好奇心旺盛で芸術も嗜むような女性だ。テキサスという土地でそんなことを求められたらさぞ困っただろう。
そして本作タイトルであるテキサス州のパリが実は両親が初めて愛を交わした場所だった。それもあってなのかとにかくフランスへの思い入れが強い父だった。父が母をひとに紹介するとき「パリで出会ったんだ。」と答え 少し間を開けて「テキサス州のね!」というジョークが父は大好きだった。それを笑いをこらえながらウォルトに話すトラヴィス。面白いかどうかは別としてそのジョークはトラヴィスのお気に入りでもあった。
このジョークの通り本作のタイトルの意味は"テキサス州のパリ"だ。そんなトラヴィスは大好きな父のジョークが生まれたそのパリにトラヴィスは土地を購入していたことをウォルトに土地の写真を見せて告白する。
邦題「パリ、テキサス」にごまかされてしまうが、実際の原題はParis,Texas、"テキサス州のパリ"だ。コメディ映画の匂いがして印象も変わってくる。
勝手に解釈(ネタバレあり注意)
本作を最後まで観た直後、せっかく再会できたのになんで3人で一緒に暮らそうとしないんだよトラヴィス!"そして男は去っていった"なんて終わり方はハードボイルド小説のようでちょっとカッコつけすぎじゃないかトラヴィス!と正直なところ感じた。
しかし、本作の3年後(1987年)にヴェンダースが監督・脚本した「ベルリン・天使の詩」を鑑賞してから印象がガラッと変わった。この映画はダミエルという名の天使(おじさん天使)が主人公。高いビルの上から下界を見下ろし悩める人々の声に耳を傾け、絶望した人間にそっと手をさしのべる。その天使がサーカスの空中ブランコ乗りの女性に恋をして下界に降りるという映画だった。
この映画を観終わってハッとした。天使が下界に降りる…。こ、これはまさか…。
実はト、トラヴィスって死、死、死んでしまっていたんじゃないのかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?妻と息子を再会させるために天使になって現れた!と、この映画を解釈した。
ジェーンとガラス越しの会話の中でも、目を覚ますと二人(ジェーンとハンター)の姿はなく青い炎に包まれていたと言っていた。トレーラーハウスから逃げ出した二人、ひとり残されたトラヴィス。ストーブから出火し燃え盛る炎の中トレーラーハウスから飛び出し転げ回ったあと命を落とした。
劇中で飛行機に乗ることを拒んだり、クルマでの移動中も途中で逃げ出したり、ウォルトの家では靴を磨いてくれたり、ハンターと学校から家まで歩いて帰ってきたり、とにかく歩くことにこだわっていた。それも自分が天使だからじゃないかと考えると納得できる。
若すぎて子供を育てることができなかったジェーンが人生を見つめ直し 受け入れられるようになったとき、天使となって現れて二人を再会させるファンタジーと考えて鑑賞するとまったく違う映画に思えてくる。めちゃくちゃ切ない!2回目の鑑賞を終えてしばらく余韻に浸った。そしてこの素晴らしい映画に出会えた喜びをひしひしと感じた。
まとめ
テキサス州にある"パリ"という土地を購入し3人で暮らすことを夢見るも叶わなかった男が、天使となって街に現れて母と子供を再会させる話だったんだ!この映画、間違いなく傑作!
もしトラヴィスの夢が叶っていたら、人に自分の住まいを伝えるとき「いまパリに住んでるんだよ。」しばらく間を開けてから「テキサス州のね!」というジョークを絶対使っていただろう。
以上です。最後までご覧いただきありがとうございました。
コメント
この作品がサム・シェパードの戯曲ということも感動。
ちなみに奥様は、けしからん!ぐなボディをもつ女優あのジェシカ・ラングだよね。
離婚しないでまだ夫婦でいるとこも大好きだ。
おー、ジェシカ・ラング!
トッツィー!